導入・活用TIPS
  • 2023.11.27 Mon

国際宇宙ステーションとの通信 ~地上と何が違うのか~

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宇宙利用サービス導入のポイントを、その道のエキスパートが解説する「導入・活用TIPS」。今回は「国際宇宙ステーションとの通信」をテーマに掘り下げます。

● 執筆者からのひとこと
国際宇宙ステーションと地上は、スマホの様にいつでも繋がっているというわけではありません。それはなぜでしょう?そして、どうやって通信しているのでしょうか。

目次

● 執筆者
川口 聡(かわぐち さとし)
有人宇宙システム株式会社(JAMSS) ISS利用運用部 所属

● プロフィール
筑波宇宙センター(茨城県つくば市)に設置されている、国際宇宙ステーションからの映像・データを受信するシステム開発を担当。2008年の日本実験棟「きぼう」の運用開始以来、国際宇宙ステーションでの実験やイベントで取得された映像・データを見守り続けている。

「はい。聞こえます!」

皆さんの中には、国際宇宙ステーション(ISS : International Space Station)にいる宇宙飛行士と、地上との交信の様子をニュース等でご覧になったことがある方もいらっしゃると思います。その際、地上からの問いかけに対して、宇宙飛行士からの応答があるまで、数秒の遅れがあるのにお気づきだと思います。最近では海外の友人、仕事相手とビデオ会議で話す機会も増え、その時も若干の待ち時間があるのを感じているかと思いますが、ISSとの交信の方がもう少し長く時間がかかります。それはISSが遠いところにあるから当然でしょ!と思っている方はいらっしゃいませんか?ISSは、実際どの位の高さを飛行しているのでしょうか?

実は、ISSの高度は「僅か」400km。東京から名古屋までが約350kmですので、それより少しだけ遠いところを飛んでいるにすぎません。それでは、なぜ地上よりも交信に時間がかかるのでしょうか?もう、お気づきの方も多いと思いますが、それは、ISSと地上とで直接通信しているのではなく、間に中継衛星を介して通信しているからです。

地上と国際宇宙ステーション(ISS)間の交信には数秒の遅れがある!それはなぜか?(画像はイメージ)
「どこまで見えますか?」

ISSと地上との通信には、現在、主に米国のデータ中継衛星(TDRSと呼んでいます)が使われています。中継衛星は、中継衛星までの片道で高度約36,000kmに位置しますので、片道だけで、地球1周分(約40,000km)と同じくらいの時間がかかることになります。

ISSと地上の通信はデータ中継衛星(TDRS)を介して行われている(図はイメージ)

ところで、余分な時間がかかるのに、なぜ中継衛星を使って通信するのでしょうか?ISSと地上とで直接通信するのでは駄目なのでしょうか?答えは「駄目」なのですが、その理由は、ISSの①高さと②速さ、③地球の自転が関係しています。

まず、①高さですが、前述の通り、ISSの高度は400km。地球の大きさ(半径約6,400km)からすると、地面にへばりつくような高さを飛行しているため、ISSから「見える」つまり「通信できる」地上の範囲は限られていて、地球表面の約3%ほどです。続いて、②速さですが、ISSは約90分間で地球を1周してしまうため、ISSから見える地上の範囲は刻々と移動してしまいます。更に、③その間に地球も自転しているため、ISSが地球を1周して元の位置に戻ってきても、その時に見える地上の範囲は西方向へどんどんずれていきます。
そのため、地上の受信局がどこかにあったとして、その受信局とISSが直接通信できるのは、限られた時間だけになってしまうのです。皆さんも、ISSがどの位の速さで上空を通過するかを、ご自分の目で確認することができます。お住まいの上空をISSがいつ通過するのか、以下のサイト等を参考に調べてみてください。
#きぼうを見よう - 国際宇宙ステーションが見える予測日時のお知らせ

ISSは肉眼で見える!ISSがどの位の速さで上空を通過するか、自分の目で確かめてみよう(画像はイメージ)
中継衛星の役割

さて、中継衛星です。ISSと地上とが直接通信できる時間が限られているとして、中継衛星との間ではどうなのでしょうか?

まず、地上と中継衛星との間ですが、中継衛星は静止軌道という特別な軌道に位置しているため、地球の自転に合わせて一緒に移動することができ、地上の受信局からは同じ場所に「静止」しているように見えます。そのため、地上と中継衛星の間は、常に通信することができます。

次に、ISSと中継衛星の間ですが、ISSが中継衛星から見て地球の反対側にいる時はお互いが通信することはできませんが、ISSが地球を1周する間のおよそ半分はお互い通信することができます。実際には、異なる位置にある複数の中継衛星を切り替えながら使用することで、ISSの場合では、およそ8割前後の時間帯で、ISSと地上との間の通信ができるようになっています。

未来の通信

地上ではスマホの電波が立っていればいつでもネットワークに繋がることができますが、ISSとの間では常に繋がっているわけではない、ということがお分かりいただけましたでしょうか?もし、皆さんがISSを利用して、イベントや実験をお考えの場合は、そのことを頭の片隅においてご検討いただけると幸いです。

現在、地球低軌道(LEO:Low Earth Orbit=高度2,000km以下の衛星軌道)における商業宇宙ステーションの計画が進められております。それが実現する頃には、また新たな通信経路が確立し、今よりも更に便利に利用できる時代になっているかもしれません。

私の所属している会社でも、ISSの通信に関する課題への取り組みを行っておりますので、興味をお持ちの方は以下もご参照ください。
宇宙ステーションのファイルをどうやって届けるか?JAMSSが開発した「自律的ファイルダンプシステム」の技術実証を実施

以上、最後までお読みいただきありがとうございました。

近い未来、地球低軌道をフル活用した新たなシステムが実現するかもしれない(画像はイメージ)

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