導入・活用TIPS
  • 2023.09.22 Fri

はじめて宇宙を利用する人が感じるギャップ ~ギャップ解消への道のり「時間」編~

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宇宙利用サービス導入のポイントを、その道のエキスパートが解説する「導入・活用TIPS」。今回は「はじめて宇宙を利用する人が感じるギャップ」をテーマに掘り下げます。

● 執筆者からのひとこと
「宇宙を利用する」といっても、なかなかイメージはわかないものです。ここでは、宇宙利用までの大まかな流れを説明しつつ、お客さまと対話する中で、筆者がよく感じる「宇宙業界の常識」=「世間の非常識」、特に実現までの「時間」のギャップについて書いてみたいと思います。具体例を挙げることで、宇宙利用について、より身近に感じていただけると嬉しいです。

目次

● 執筆者
岡田 久仁子(おかだ くにこ)
有人宇宙システム株式会社(JAMSS) 新事業開拓室/室長代理
兼 ISS利用運用部/利用開拓グループ グループリーダ   

● プロフィール
国際宇宙ステーション(ISS)/日本実験棟「きぼう」の実験運用管制要員として、長年、宇宙実験をサポートしてきました。近年は、そこで得た知見・経験を活かし、民間企業の「きぼう」を利用するお手伝いや、宇宙低軌道における商業活動の発展を目指し、新規ビジネス開拓に取り組んでいます。

「宇宙を利用する」とは?

一言で「宇宙を利用する」といっても、さまざまな「利用」があるわけで、例えば気象衛星や通信衛星など、あまり意識しないところで、宇宙は人の生活に欠かせないインフラやサービスを提供しており、これがまさに「利用する」ということだったりします。
今回は、人工衛星ではなく、国際宇宙ステーションを使った「利用」の流れを簡単にご紹介し、より身近に感じていただくために、「宇宙業界の常識」=「世間の非常識」に焦点をあててみたいと思います。
今回の「宇宙業界の常識」=「世間の非常識」は、「時間」です。

さて、国際宇宙ステーションで行われる「利用」の多くは、「宇宙実験」です。放射線の影響を調べたり、微小重力環境下で実験を行うわけですが、宇宙でやるわけですから、地上でやるのとは少々流れも違います。

「宇宙を利用する」には?

やりたいことを見極める
地上では、試行錯誤しながら実験しますし、道具がなければ作ればよいですし、観察したければ自らその場観察する、というオーソドックスな実験手法もとれるわけですが、さて、宇宙で同じことをやろうとすると、
- 試行錯誤するにしても簡単にスケジュールを立てられない
- 新たな道具を打ち上げるには色々審査されるしお金もかかる
- その場観察するにしても映像を地上にダウンリンクしてもらうしかない
など、とにかく面倒。
そもそも、自分が宇宙に行くわけにもいかないので、宇宙飛行士や運用管制官にやりたいことをしっかり伝えておく必要があるのです。
実は、お客さまと対話している中で、ここが一番重要だったりします。
お客さまが「こういうことができたら良いな。」と考えておられる中で、宇宙利用に係るさまざまな制約を知る我々が「それはできません」と言うと、そこで対話は終わってしまいます。「こうやったらできるのでは?」と提案していくことこそ意味があるわけですが、そのためにも、「本当にやりたいことはコレ!」というところをしっかり共通認識として持っておく必要があるのです。

ものを作る、手順をつくる
先に述べた「道具」を作るということも一筋縄ではいきません。ロケットで打ち上げるわけですから、打上げ振動に耐える必要もありますし、地上以上に安全に動作することを保証しなければなりません。宇宙ならではの特徴といえるでしょう。また、宇宙飛行士の活動時間もしっかり管理されていますので、どれくらいの活動時間が必要かなど、細かく検討した上で、宇宙飛行士向けにわかりやすく手順書を作成します。ハードとソフト両面から、「利用」実現に向け、準備を進めていきます。

やっと本番
周到な準備を進め、ロケットでモノを打ち上げて、自分たちの「利用」のタイミングが来るのを待ち、やっと本番です。宇宙飛行士、運用管制官など、それぞれのプロフェッショナルに支えてもらいながら、「利用」本番となります。

「宇宙業界の常識」=「世間の非常識」:「時間」

ここまで読んで、お気づきになられた方もいると思いますが、宇宙「利用」にはかなりの人が関わっています。そんな人たちと意識合わせするだけでも、相当な時間がかかります。

お客さまとお話していて、「1年ぐらいかかりますか?」と控えめに聞かれることがあるのですが、「1年“は"かかります。」というと、キョトンとされることがあります。
業界人は平気で、「2年はかかります。」「いつできるかなんてわかりません。」なんて無邪気に言うもんですから、お客さま対応している身としては血の気が引くときがあります(笑)。

数か月のプロジェクトが当たり前の時代。数年なんて相当な大規模プロジェクトです。「いつになるかわからない」なんて言われたときには、お客さまだって、「やる」なんて言えないですよね。
逆にそんなお客さまがいたら、本気かどうか疑ってしまいます。
もちろん、下図に示しているように、最短半年で打上げできることもあります。但し、いろいろな前提条件がありますので、注意が必要です。

宇宙利用サービスの流れ ©JAMSS

現実は、開発が遅れる、審査に時間がかかる、ロケット打上げが遅れる、他の優先度が高いミッションに押し出されてしまう、なんていうのもざらなのです。残念ながら。

だからこそ、しっかり準備をすることで、スケジュールが遅れるリスクを減らしていくことが非常に大事だったりします。

それでも変わりつつある

ここまで若干ネガティブなお話となりましたが、安心してください。
この「時間」の話、どうしようもない話というわけでもないと思っています。
長年、宇宙ステーションに携わっている我々からすれば、かなり改善されてきているのです。
スペースシャトル時代、打上げ延期は当たり前。もちろん、宇宙飛行士の安全確保が最優先ですから、誰一人として文句は言いません。数日遅れから数週遅れ、それも何回も。そんなとき、現場は、計画どおり打ち上げられた場合のスケジュールと遅れた場合のスケジュールを検討するのですが、それを何パターンも何回もすることになり、今思えば、途方もない作業でした。
そんな過去と比べたら、すばらしく改善されています。

鉄道や飛行機の歴史然り、きっと宇宙利用も、時間短縮が進むはずなのでは。

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