宇宙利用のいま
  • 2024.03.14 Thu

光ファイバーの技術革新へ|フッ化物ガラス ZBLANを宇宙で製造し高性能化

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宇宙で作ったものが、地上の生活を変える。そんな未来がすぐそこまで来ています。2024年初頭、これまでより高性能な光ファイバーを宇宙で製造するデモンストレーションが行われました。5km超を2週間で製造することに成功し、宇宙工場の実現に向けて大きな一歩を踏み出しています。米国スタートアップ企業の事例をご紹介します。

目次
フッ化物ガラス"ZBLAN"とは?

フッ化物ガラスとは、一般的なガラスよりも透過率が高く、光を効率的に伝導できる素材です。一般的なガラスは、その主原料にシリカを使いますが、シリカ系ガラスはその原料に起因した性能の限界に達しているのが現状です。そこで、注目されているのがフッ化物ガラス。主原料はアルミニウムなどのフッ化物で、中でもフッ化ジルコニウムを主原料としたZBLANは、強度があり、かつ光をよく通す優れた透過率をもつことで知られています。その特徴から、光ファイバーの素材によく使われ、地上のレーザーや増幅器に広く使用されています。

ZBLANの光ファイバーは、潜在的には、従来のシリカ系光ファイバーよりも最大100倍効率的な性能をもつとされています(※1)。ただ、地上で製造すると重力による対流によって材料内に光散乱欠陥が生じ、その潜在的な性質を十分に引き出すことができない、という問題を抱えていました。
(※1)出典:ISS国立研究所(ISS National Lab)

画像はフッ化物ガラスZBLANのサンプル品 ©Icozmuta
出典:Wikipedia
米国のスタートアップ企業、宇宙でZBLAN製造に成功

この問題に挑戦したのが米国シリコンバレーのスタートアップ企業、Flawless Photonics社(フローレス・フォトニクス社)です。2024年初旬、国際宇宙ステーションにおいてZBLANの光ファイバー5km超を2週間で製造することに成功した、というニュースが発表されました。ZBLANの宇宙での製造は、これまで他の企業も取り組んできましたが、これほどの成果は前例がありません。同社によると、今回製造した光ファイバーの性能は、地上で再現し製造することは不可能であり、微小重力下だからこそ実現したものといいます。5kmという長さは販売ロットになりうるものであり、宇宙工場(地上での販売を目的として宇宙で製造すること)の実現に向けて大きな一歩を踏み出したといえるでしょう。

国際宇宙ステーションでは、重力の影響をほとんど受けない。地上では実現できない高性能・高品質な素材の製造が期待されている。
宇宙実験の概要

ZBLANを製造する実験は、2023年11月に国際宇宙ステーション(ISS)で行われました。同社は、欧州宇宙機関(ESA)とルクセンブルク宇宙機関から資金提供を受けて、宇宙用の製造プラットフォーム(Flawless Photonics manufacturing platform)を開発しました。さらに、米国のISS国立研究所の支援を受けてISSへ打ち上げ、製造のデモンストレーションを行いました。

通常、地上でガラスを製造する際には、重力の影響でガラス中に微細な気泡ができたり、高温のガラスを冷却する過程で容器の素材が不純物としてガラスに混ざってしまったりすることがあります。これが光の透過性や反射性を損なう原因となります。しかし、国際宇宙ステーションの微小重力環境では、この問題が解消されるのです。ZBLANに限らず、宇宙では、地上で実現できない高性能・高品質な素材の製造が期待されています。

今回製造された光ファイバーは、地上で製造されたものよりも優れた透過率と強度を示しています。2024年4月に地球へ持ち帰り、実用化に向けて研究が進められる予定です。今後の成果に期待がよせられます。

光ファイバーの技術革新は未来をどう変えるか

光ファイバーは、通信技術や医療機器などのさまざまな分野で利用されています。これらがZBLAN光ファイバーに置き換わることで、私たちの生活をさまざまな側面で変えていくことでしょう。

今、Flawless Photonics社(フローレス・フォトニクス社)が掲げるムーンショット(※2)は「海底ケーブルをZBLAN光ファイバーで作ること」です。これは、地球規模の省エネ化に貢献するという壮大な目標です。現在使用されている海底ケーブルはシリカ系の光ファイバーですが、これをZBLAN光ファイバーにすることで、透過率が10~100倍向上し、増幅器を減らすことができるため、節電に貢献するというのです。(なんと!海底ケーブルの増幅器の電力は、全世界のエネルギー予算の1~1.5%のオーダーでエネルギーを消費しています。) 光ファイバーの技術革新が、地球規模の課題解決に貢献する可能性を秘めているのです。

海底ケーブルには光ファイバーが使用されている。(画像はイメージ)

(※2) 「ムーンショット(Moon Shot)」とは、前人未踏で非常に困難だが、達成できれば大きなインパクトをもたらし、イノベーションを生む壮大な計画や挑戦のこと。第35代アメリカ合衆国大統領のJ.F.ケネディ氏がアポロ計画を発表し、人類を月面着陸させるという前代未聞の挑戦を有言実行したことから、困難は伴うが野心的で夢のある計画がムーンショットと呼ばれるようになった。
出典:Weblio辞書

身近なところでは、光ファイバーは医療用レーザーに使用されており、ガンの手術や早期発見、緑内障の手術、歯科治療など、様々な分野で利用されています。その高性能化は、医療への応用も期待されています。

宇宙で作ったものが、地上の生活を変える。そんな未来がすぐそこまで来ています。

医療用レーザーはガンの手術や早期発見、緑内障の手術、歯科治療など様々な分野で利用されている。(画像はイメージ)
引用記事

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